東海道新幹線、のぞみ号が16時34分に京都駅に滑り込んだ。
こののぞみ号に大きなマスクをかけた初老のカップルが乗り込んできた。
9号車のグリーン車。
乗客はホンの数人。
それでもカップルは、周囲に目を配りながら4番のCとDに並んで座った。
ここまでなら3連休を冬の京都で楽しんだ仲の良いご夫妻だが、これが有名人だったから話が違ってきた。
まず、奥の席に女性が座り、通路側に男性が座った。
ふたりは、女性客室が、お絞りを持ってきたときも、乗車券のチェツクにきたときも顔を隠すようなしぐさを見せた。
女性は帽子を深めにかぶっていたが、相手の男性の顔は分かった。
車内販売がきたときも二人は意識的に窓の外を見ていた。
車内販売の女性が、じろじろ見ていたから分かっていたのかも知れない。
ふたりは、女優の由美かおる(60)と東海大教育開発研究所所長で数学者の秋山仁さん(64)だった。
昨年の6月、女性週刊誌がふたりの熱愛をスクープした。
還暦を迎えたいままで、独身を貫いてきた由美と、モジャモジャの長髪にバンダナを巻き、立派なあごひげをたくわえた異色の数学者の秋山さんとの熱愛に世間はビックリした。
当時、女性週刊誌は、ふたりがリサイタルで共演し、一緒に「百万本のバラ」を弾いたり、都内の書店での手をつなぎデートなど、親密な様子の目撃談などを紹介していた。
由美の所属事務所は「秋山先生とは公演でご一緒させていただいているのは事実ですが、交際しているかどうか分かりません」と、答えていた。
ふたりはアコーデオンを通して知り合い、師匠と弟子の関係だとも言っていた。
しかし、新幹線で見たふたりは、愛し合っているカップルにしか見えなかった。
由美の前のテーブルを広げ、駅弁を取り出した。
秋山さんが、一口ずつ由美の口元に運ぶ。
食べたら由美の口を拭いてあげていた秋山さん。
周囲に聞かれないようにひそひそ話。
幸せそうなふたりだ。
秋山さんの手をもみ続けていた由美。
彼女が一度だけ帽子をとりマスクを外した瞬間があった。
秋山さんが、10号車に付いている喫煙ルームに行ったときだ。
由美が化粧を始めたのだ。
秋山さんに美しい笑顔を見せようと思った女心か。
車内に入ってきたときは、秋山さんの後ろから付いてくるように歩いていた由美。
東京駅の八重洲口に降り立ったふたりは、タクシー乗り場に並ばず、その先に歩いていった。
並んで歩くふたりに気が付いた人はいなかった。
新幹線に乗ってきたときと同じように、深めにかぶった帽子とマスク。
あれじゃ、誰も気が付かない。
交際発覚から8ヶ月、老いらくの恋は激しい炎に包まれているようだ。
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